本研究は,追跡個体に装着したGPS首輪の測位成功率の変化に着目し,都市部に生息するハクビシン(Paguma larvata)の行動特性を明らかにしたものです。GPS測位は追跡個体が遮蔽物の下にいる場合失敗します。そこで,「GPS測位に失敗した場合,追跡個体は遮蔽物の下で休息している」と仮定して解析しました。岩手県盛岡市の市街地で3頭のハクビシンを約1年間追跡し,GPS測位成功率の変化と時間帯・季節・気象条件の関係を解析しました。
時間帯で整理すると,測位成功率は18時から20時にかけて上昇し,翌3時から6時にかけて下降したことから,通年で夜行性であることがわかりました(図1)。季節で整理すると,測位成功率は冬に顕著に低下したことから,ハクビシンの行動活性が低下していることが分かりました。気象条件に着目すると,気温が高くなると春と冬ではハクビシンの行動が活発になり(測位成功率が上昇),夏では逆に不活発(測位成功率が低下)になりました。特に冬季では気温5℃未満で活動活性が顕著に減少しました(図2)。風速はすべての季節において,降水量は夏のみにおいて少ないほど活発になりました。月の明るさは夏では明るいほど活発になり,秋と冬では暗いほど活発になりました。この理由として,夏と秋冬の食物資源の違いが考えられました。明るい環境では小鳥などを捕まえやすいというメリットがありますが,逆に,外敵からも見つかりやすいというデメリットもあります。ハクビシンは,夏は小鳥などの動物性資源を利用する傾向があり,秋冬では柿や銀杏などの植物資源に依存していることが別の調査結果からわかっています。このように,ハクビシンは利用する食物資源に応じて,メリットとデメリットのバランスから,より有利な環境を選択しているものと考えられました。
GPS追跡の調査において「測位失敗データ」は従来軽視されてきましたが,本研究はその有用性を示しました。ただし本研究の結果はあくまでも仮定に基づいたものであるため,今後は,測位成功率の変化と休息行動の実態を直接検証する必要があります。
【発表論文】
タイトル :Seasonal changes in resting behavior of the masked palm civet (Paguma larvata), focusing on the GPS
positioning success rate in urban areas of Morioka City, Japan.
著者 :Fukushima, Y., Harashina, K., Nishi, C.
雑誌名 :Landscape and Ecological Engineering.
DOI番号 : https://doi.org/10.1007/s11355-025-00674-5