11月17日(月)に「第32回 一般・高校生向けセミナー」を開催しました。今回は【野生動物と農作物被害】をテーマに、出口善隆 生態環境部門 兼任教員(農学部教授)が講演を行い、40名の参加者にご聴講いただきました。
セミナーでは、縄文時代から現代に至るまでの野生動物と人間のかかわりについて、土器絵画などの出土資料や文献に記された内容も踏まえてご説明いただきました。
野生動物は、縄文時代には山の神の恵みとして畏敬の念を持たれながらも、食料として狩猟されていました。しかし、人類が農耕を始め、時代が下るにつれて、農作物に被害をもたらす存在としても認識されるようになり、農作物被害対策として狩猟や追い払いなどの防除の対象となるようになりました。
第二次世界大戦後には人工林が植えられるようになりましたが、林業の不振や高齢化による中山間地の過疎化などが原因で、里山が放置され、徐々に都市部に野生動物が現れるようになってきています。また、北東北のイノシシのように、一度絶滅した野生動物が他地域から生息地を拡大させてきている例もあります。
次に、動物行動学の観点から、野生動物の食物摂取行動は「野生動物による農業被害問題=野生動物の採食場所選択の問題」と説明することができるとのお話がありました。山の中で餌を探すよりも、農作物の方が動物にとって効率的にエネルギーを摂取できるため、里山の消失など様々な要因により「食物を得るためのコスト」が低下している現在では、農作物を狙うメリットの方が大きくなってきているとのことでした。
最後に、近年の熊による被害が起きやすい時間帯や場所についての説明があり、豊作と凶作を繰り返すブナの実の増減が、クマの個体数や都市部への出没に影響を与えているとのお話がありました。
参加者の皆さまからは、「野生動物の歴史的な経緯の話は初めて聞いたので興味深かった」「人と動物のかかわりについて、昔からいたちごっこになっていることを改めて知った。里山を守ることの大切さを認識した」「動物も楽して食糧を得たいと考えるあたり、人間も動物も考えることは一緒だなと妙に納得した」などの声が寄せられました。
次回は12月23日(火)に【見えない電波が支えるスマート農林水産業:通信・電力伝送・センシングの無線融合技術】をテーマに、村田 健太郎 生態環境部門兼任教員(理工学部助教)が講演を行います。
今後も毎月1回程度のペースで継続的に開催し、当センターの研究成果を日常の身近な話題に落とし込みながら、地域に向けて発信してまいります。皆さまのご参加を心よりお待ちしております!
