AIC生物生産部門 山田美和、芝崎祐二らの研究グループは、組換え大腸菌を使用することで、エチレングリコール(EG)からグリコール酸(GL)と3-ヒドロキシブタン酸(3HB)がランダムに共重合しているポリマー[P(GL-ran-3HB)]の微生物合成に成功しました。合成されたP(GL-ran-3HB)のGLモル分率は、培養条件によって50 mol%まで幅広く制御が可能です。さらに本論文では、得られた多様なGLモル分率のP(GL-ran-3HB)について、熱的性質や結晶性についても明らかとしました。
自動車のエンジンの冷却液や不凍液には、高濃度のEGが含まれていることが知られていますが、使用後のこれらのEGの再利用は、未だ一部に留まっています。一方で、GLベースのポリマーは、高い加水分解性を有することから、バイオメディカル用途をはじめとする様々な用途への可能性が期待されています。本研究において、山田らの研究グループは、組換え大腸菌に複数の酵素遺伝子を導入して培養条件を検討することで、EGとキシロース添加培地において0.4から49.5mol%と幅広いGLモル分率のP(GL-ran-3HB)を微生物合成することに成功しました。GL モル分率が 17 mol% を超える P(GL-ran-3HB)の生合成は、本研究が世界で初めての報告となります。さらに、芝崎らの研究グループが、合成されたポリマーの特性を評価することによって、GL ユニットの組み込みによって P(GL-ran-3HB) のガラス転移温度がわずかに上昇し、融点と分子量が低下することを明らかとしました。興味深いことに、GLモル分率が46 mol% を超えるポリマーはほぼ非晶質であるため、GL モル分率の増加とともに結晶性が低下することが観察されました。本研究成果は、新たなバイオプラスチックの開発に貢献するだけでなく、バイオプラスチックの原料として産業廃棄物 EGを利用できる可能性を提示した大きな意味があります。
【発表論文】
タイトル :Biosynthesis of poly(glycolate-ran-3-hydroxybutyrate)s with different glycolate molar fractions from
ethylene glycol
著者 :Munenori Hayashida, Yosuke Ota, Masayoshi Honda, Sumio Aisawa, Yuji Shibasaki, Hideki Abe,
and Miwa Yamada
雑誌名 :Polymer Degradation and Stability (IF: 7.4)
DOI番号 :https://doi.org/10.1016/j.polymdegradstab.2025.111502