次世代アグリイノベーション研究センターの原科幸爾教授らは、盛岡市市街地に生息するハクビシンについてGPS装置を用いた追跡調査を実施し、都市部における生態を明らかにしました。その研究成果がこの度学会誌に掲載されました。
環境省によって重点対策外来種指定されているハクビシン(Paguma larvata)は、農業被害のほか、家屋の屋根裏などをねぐらとして利用するため騒音や排泄物といった生活環境被害を引き起こしています。岩手県では、20年前にはほとんど本種の生息が確認されませんでしたが、現在ではほぼ全域で生息が見られ、10年ほど前からは都市部にも進出してきました。
本研究では、岩手県盛岡市の市街地2ヶ所(大慈寺地区と上堂地区)で捕獲した5頭のハクビシンにGPS首輪を装着して追跡調査を行い、とくに行動圏と移動阻害要因に着目して、都市部におけるハクビシンの生態を明らかにしました。追跡した個体は、ほぼ完全な夜行性であり、日中はねぐらに入っていました。追跡個体の行動圏面積は63.6~298.4 haで、農村部で実施された既往研究と同程度であり、2ヶ所の調査地のいずれにおいても各個体の行動圏は広い範囲で重複していました。道路と河川および線路が追跡個体の移動を阻害する要因となっていましたが、道路の場合は幅員が広く、車両の制限速度が高く、路面上が明るい場合のみ、移動阻害要因として機能していることがわかりました(図1)。また、都市計画上の用途地域に着目して、GPSデータが記録された場所との関係を統計解析すると、追跡個体は商業地域を避けていることがわかりました(図2)。追跡個体が商業地域を避けていた理由として、人通りや明るさなど様々なものが考えられますが、都市に生息するハクビシンの行動に影響を与える環境の違いを表現する指標として、用途地域が利用できる可能性が示唆されました。
【発表論文】
タイトル :都市部に生息するハクビシン(Paguma larvata)の行動圏と移動阻害要因 -岩手県盛岡市の市街地を対象として-
著者 :福島良樹・原科幸爾・西千秋
雑誌名 :哺乳類科学63(1), 29-42.
DOI番号 :https://doi.org/10.11238/mammalianscience.63.29
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