AIC生物生産部門 折笠貴寛らの研究グループは、環境影響評価手法の一つであるライフサイクルアセスメント(LCA)手法を用いて、しょうゆの環境負荷を多く発生させるプロセスを特定するとともに、しょうゆのライフサイクル環境負荷を低減する手段として有機栽培大豆の導入が効果的であることをシナリオ分析により明らかにしました。本成果は、日本食品科学工学会の学術誌であるFood Science and Technology Research誌に掲載されました。
2015年の国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、各国が経済・社会・環境のバランスの取れた社会を目指すことが一層重要となりました。この動向は食品産業においても例外ではなく、持続可能な産業活動への取り組みが求められています。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを皮切りに、和食に欠かすことのできない調味料であるしょうゆは世界中で市場を拡大しています。しかし、しょうゆを対象としてSDGs達成に必要な環境負荷を評価した事例はほとんど見当たりません。そこで本研究では、LCA手法を用いてしょうゆの環境負荷のホットスポットを評価するとともに、環境負荷を低減する手段として有機栽培大豆の導入シナリオを検討しました。その結果、しょうゆのライフサイクルにおけるホットスポットは、原料となる大豆の栽培に使用される殺虫剤・殺菌剤・農薬の製造であり、しょうゆ製造工程の環境負荷は相対的に小さくなることを明らかにしました。また、有機栽培大豆の導入シナリオの分析において、有機しょうゆは慣行しょうゆに対して17~71 %の環境負荷削低減が期待されることを示しました。さらに、有機栽培に伴う大豆の収量減少がしょうゆのライフサイクル環境負荷に与える影響を評価したところ、しょうゆの製造における有機栽培大豆の導入は環境負荷低減効果が期待される一方で、ある程度の収量維持が重要であることを新たに示しました。
以上、本成果は、持続可能な食品産業を検討する上で重要な知見となります。
【発表論文】
タイトル :Quantitative evaluation of the reduction in the environmental burden during the life cycle of soy sauce
著者 :Ayuka Hoshino, Takahiro Orikasa, Shoji Koide
雑誌名 :Food Science and Technology Research, 31(2), 111-121
DOI番号 :https://doi.org/10.3136/fstr.FSTR-D-24-00196